流行ってから久しく、既に一ジャンルとなっている婚約破棄モノだが、バリエーションには富んでいると思う。それこそ、婚約破棄後は婚約者の従兄弟やら騎士団長やら、何なら隣国の国王やら魔王さまやらドラゴンにいたるまで
主人公の嫁ぎ先はよりどりみどり。
とにかくいい男であれば、立場なんてどうでもいいのであろう。
女性たちの間でドリーム小説なるものが流行る理由が見え隠れするところだ。恋愛したいというよりは、愛されたいのだろう。
何もそれは悪いことではない。ハーレムモノでモテモテになりたい男子と特に変わりはない。このあたりは何の大差もないのである。
さて、今回はそんな婚約破棄モノについて、
以上の内容を書き連ねていく。
1.一行目で婚約破棄宣言してる
もはやお決まりパターンでテンプレ化しているため、ツッコミを入れていいものかどうかも分からない。作品冒頭、大抵5行目までに
「〇〇〇〇! 婚約破棄するぞ!」と言っている。
〇についてはフルネームであることが多い。一種の礼儀なのだろう。どんな礼儀なんだろう。
読者は婚約破棄された後から読みたいので、破棄される前についてはそれほど深堀しなくていいということか。WEB小説はそういうところがあると思う。無駄を削いだエンタメとして優秀である。
たまに「貴様との婚約を破棄する!」とか荒々しく宣言していることもあるが、破棄する側は地位のある者やその後継者であることが多いため、そんな感情的にならんでもええやんと思うと同時に
ハニートラップを仕掛けて婚約相手の本性を暴こうという、主人公側が企てた罠なのでは?という気もしてくる。
主人公と浮気相手がグルだろうと思うくらい、易々と騙されてくれる存在。それが婚約破棄モノの婚約者である。
2.王子(婚約者)がアホすぎる
これも婚約破棄する愚か者として描くためには必要なのだろうが、「今までどうやって生きてきたのか」と心配になるくらいアホなのだ。もうちょっとまともな人間を騙す努力をしてほしい。
元々アホな王子がどこぞの嫌な女に騙された!のパターンが大変多い。
最初はまともだったのに、性悪女のせいでどんどん冷たくなって……みたいなパターンだと読者の、主に女性が辛くなってしまうのだろうか。あるいは作者が辛くなるのかもしれない。
確かにストーリー上で関係を修復する予定がない人物であるため、「あの頃は素敵で優しかった」なんて過去があるのは、スッパリと切り捨てる上で邪魔ということか。
それにしたってアホすぎて話にならない。
3.王子の浮気相手がアホすぎる
これも必要なのだろうが以下略。
例えば伯爵令嬢である主人公に対して、男爵令嬢である浮気相手がタメ口で話すなんて、よくある話である。それどころか、名前すら呼び捨てとくるパターンもあるのだから恐れ入る。
このあたり、非常に狡猾な女性だったパターンなども読んでみたいものだが、どうにもそういったものをランキングで見かけることがなかった。
何にしろ、あとから不正を暴かれてザマァされるだけの存在であるため、王子(婚約者)同様それほど作り込む必要性がないのかもしれないが、あまりにもバカすぎると
バカとバカが付き合って落ちぶれておしまい
でしかないので、もはや何とも思えなくなってくる。落ちぶれて然るべきバカなのだ。
ただ、大変聡明な女性で表では主人公に対しても丁重に振る舞っている──となってくれば、当て馬よりもライバルとして起用したくなることは確かだ。そういうのも読みたいが、婚約破棄モノとしてはなかなかそういったキャラの立っている相手は難しいに違いない。そういうのも読みたい。誰か教えてほしい。
4.婚約破棄をなぜか大勢がいる場でやる
卒業パーティーやら祝賀会やら舞踏会やら、名目は何でもいいが大抵は何らかの集まりの場で行われる。公衆の面前で貶めることが目的なのかもしれないが、だとすれば完全に悪印象を与えてしまうのがどちらなのかということを理解していない。
社交界、もしかして出たことないんか??
とすら思えてくる。
主人公を「婚約破棄された悲劇のヒロイン」とするためには必要なのかもしれないが、こぞってこのパターンでありテンプレ化しているのは、だんだん流石だなと思えてくる。婚約破棄モノを書きたい方には是非押さえておいてほしい正真正銘の王道パターンである。裏庭に呼び出してこっそり婚約破棄なんて見たことがない。
しかし、このパーティーの場は、舞台として大変美味しいのである。
まず、まさかの婚約破棄劇を見せつけられることになった傍観者、もとい参加者すべてが目撃者となる。ある意味では婚約破棄現場に関する証人である。
次に、「そうだそうだ!」とモブを加勢させるのに都合が良い。密室で急に取り巻きが入ってきても怖いからね。大抵は王子の取り巻きというよりは、浮気相手の取り巻きである。
「こんなかわいい子をいじめるなんてひどいやつだ!」みたいな展開が多い。(そして、そのイジメは大抵ウソなので、ただ踊らされているだけの可哀想なモブ取り巻きである)
仮にも伯爵令嬢や隣国の姫君などである主人公に、そのようなことを言っている取り巻きくん達の将来が心配である。社交界の経験はおろか、教育もまともではないのかもしれないが、どちらにしても親御さんが泣いてるぞ。
5.そもそも破棄できる婚約ではないパターンが多い
もはやここもお決まりすぎて触ってはいけないのかもしれないが、隣国の姫君を娶る話は国同士の約束である。あるいは聖女と王子の結婚など、そうするべきという伝統のもと、あるいは文化的に決定されている事柄だ。そうでなくとも、王子が自由恋愛ということはまずまず有り得ないことは大抵の世界観で想像に難くないため、親同士の取り決めによる婚約だろうことは分かる。
しかし、どうしてだか、王子(婚約者)は
独断で婚約破棄を突き付けるのがお決まりパターンである。
主人公から「それは国王陛下もご存じかしら?」と聞かれ、「そんなことはどうでもいい!」やら「父王にはあとで話をつける!」やらお粗末すぎる対応にゾクゾクしてしまう。
お前の認識が一番ホラーだ。
このあたり、もう少し凝れないものなのだろうか。婚約破棄モノを書きたいのだから、婚約は破棄することが目的だ!と言われたら、まぁ、確かにそれまでだが。
以上、いくつかの作品を読んだ上で、個人的に感じたことである。
上記に当てはまらない作品も勿論あるのだろうが、我こそはという人がいれば作品を紹介してほしい。