というわけで、今回は表題の通り
ライトノベルの読者層について触れていこうと思う。
ちなみに文庫本かそうではないか、ライト文芸は小説かラノベかなどの細かい点は無視する。そういったものは専門家にお願いしたいことである。
1.ラノベはもはや「大人のコンテンツ」?
さて、そもそもラノベは「大人向けになった」のか?
それとも、単に「読み手の年齢が上がった」のか?
という問題があるが、ここは考察と議論と偏見の余地がたっぷりとあるだろう。
例えば、東洋経済オンライン「意外と知らない「ライトノベル」ブームの現在 いったい誰が、何を読んでいるのか 」(2018.3)では、以下のように述べられている。
「学生から社会人へと成長してもライトノベルが読まれている」ことから読み取れるのは、10代の頃にラノベにハマった人が大人になっても読み続けているのでは?ということである。とてもシンプルな話、読者の高齢化である。
別に「大人向け」の内容だから読んでいるのではない。好みが変化していないといえる。
この結果を以ってして、「だから最近のラノベは大人向けだ!」とは言えない。10代の若者だけのものではなくなったことは確かだろうが、それだけでは若者の車離れならぬ若者のラノベ離れ、つまり単なる読者の高齢化である。
次に、リアルサウンドの記事「ラノベ市場、この10年で読者層はどう変わった? 「大人が楽しめる」作品への変遷をたどる」(2020.11)を見てみよう。
- 2000年代以前、売れていたラノベ作品は少年少女が登場する物語
- 性や暴力描写は少年マンガと同等に抑えられていた
- 書籍化されたWEB小説の読者が30代から40代であることも珍しくなかった
- ラノベのセオリーからは外れた年齢層の主人公が出てきた
- セオリーから外れた年齢層の主人公でもヒットするようになってきた
こちらも正直なところ、10代の頃にラノベにハマった人が大人になっても読み続けているのでは?ということは言える。
ただ、2018年の記事と異なるのは、「主人公の年齢が上がっていること」に着目している点である。
つまり、10代のときにラノベを読んでいた人が大人になっても読んでいるだけであれば、「主人公は少年少女」で良いはずなのだ。好みが変わっているのでは?ということである。
では、どうして主人公は少年少女から大人に変わってしまったのか。
それは恐らく、読み手が大人になったことで感情移入しやすい主人公の年齢層が上がったのではないだろうか。
10代のときは20代が大人に見えたものだ。
26歳? もうオッサンじゃん!!!みたいなものである。恐ろしい世代だ。
確かに中学生から見た26歳の社会人は立派な大人である。しかし、26歳になってしまえば分かるだろうが、存外20代なんて赤ちゃんと大差ない思っていたほど"大人"ではない場合がある。
36歳を見れば大人だと感じ、16歳を見れば若いと感じる。
3歳児が0歳児を見て「赤ちゃん!」と言っていると、君だって赤ちゃんだろ……という気持ちになるのと同じような気がする。
上はいつまでも上、下はいつまでも下。当然のことである。
10代の頃に大人だと思っていた20代。しかし自分が20代になれば、途端に30代が大人だと感じるだろう。「自分はもう大人だ!」などと思っていた10代の頃を振り返ると、まだまだ青臭かったな、なんて感じるかもしれない。
つまり、ラノベが大人向けになった!とはまだ言えない。
ただ、大人と呼ばれる年齢層の人間がラノベを読んでいるということはいえるだろう。
2.本当に「最近になって」ラノベは大人のものになってきたのか?
さて、「1」で取り上げた記事を見てくれた人は分かると思うが、これらは何となく1990年代・2000年代・2010年代で分かれているような書き方をされているように読み取れる。
そりゃ1990年代に子どもなら2010年代で大人になっている。だからこそ、「読者の高齢化では?」という話になるのだ。
日刊SPA!の記事「【ライトノベル市場】主な購買層は30代男性 」(2013.2)では、タイトルの通り「主な購買層は30代男性」と結論づけている。2013年時点で、だ。
既に10年前の話であり、2024年現在で彼らは40代男性になっているはずだろう。
では、現在は40代男性が一番ラノベを読んでいるのか?
(購買層と読者層では微妙に異なるため、比較対象とするのは多少乱暴ではある)
ということで軽く調べてみた。
あった。調査結果があった。手間が省けた。有難い。
サンプル数は1,970人で、男性978人女性992人と大きな差はない。
年代についても、下記の通りでそもそも特定の年齢層が多いやんけ!ということではなさそうだ。
◇年齢
15~19歳:330人
20~29歳:333人
30~39歳:330人
40~49歳:318人
50~59歳:329人
60~69歳:330人
男性100人に聞いて女性には10人にしか聞いていないからそもそも意味がないデータやんけ!ということもなく、10代にはほとんど調査をかけてないデータだなということもなさそうなので、こちらのデータを活用させていただくとしよう。
出典:ラノベ利用実態調査 20代の支持が高い 人気ジャンルは恋愛・ミステリー 読むなら紙より電子が過半数 -Appliv TOPICS
こうしてみると、ボリュームは10代20代にありそうな雰囲気ではあるが、「読んだことがあるか?」という質問なのがミソだろう。一度読んだことがある程度であっても、読み続けている場合であっても、買っている場合も買っていない場合も、『YES』と答えることができるのだ。
次に、「わからない」と答えている数もそれなりにあることから、「そもそもこれってラノベなの?」と思って読んでいる説も浮上する。『重厚なファンタジーをラノベと呼ばない(しかしラノベ枠で出版されている)』という場合もあるから、このあたりは大変ややこしい。
ともあれ、今回は「ラノベは大人のものになっているか?」という視点のため、ここでは10代20代は無視する。すると、53.33%が読んだことがあると回答している30代男性がトップ、次いで40代男性の45.10%が続いている。
ここから、「30代・40代の男性がラノベを読んでいる」ことは確かだと言える。
つまり10年前の2013年時点で言われていた通り、30代男性が中心だという話に信ぴょう性が出てくるのである。当時30代の男性が今の40代なのだから。
次に注目したいのは、30代女性37.58%・50代男性38.41%・60代男性35.76%と並んでいることだろう。年齢が上がるにつれて、「ラノベを読んだことがある」と答えた割合は減っているが、50代以上の男性は30代女性と同程度に読んだ経験があると言っている。
ここから、「女性より男性の方がラノベを読むのでは?」という仮説が生まれた。
男性の方が好むかどうかはまた別の調査を見ないと分からないため、ここでは仮説として一旦置いておく。検証がめんどくさい。
3.では、「ラノベ市場」は変わったのか?
ここまでの情報を整理してみる。
以上を見て結論を出すとすれば、
「ラノベは今や中高生だけのものではなく、大人まで楽しめるコンテンツ」ということではないだろうか。
ラノベは、小説ほど敷居が高くなく、気軽な娯楽として楽しみやすいのではないだろうか。
また、アニメ化やコミカライズ化された作品の原作を読もうとしてラノベに辿り着く場合も想定できるため、そういう意味では間口が広いとも考えられる。
つまり、ラノベ市場は変わったのだ。
それは単純な読者の高齢化ではない。
かつて10代の若者向けだったジャンルから成長して、10代から40代まで楽しめるコンテンツになってきた、といえるだろう。
<おまけ>
関連して興味深い論文があったため、ここで紹介する。
大衆向けになってるのか?とそう思ったあなたは、是非ちらりとでも読んでみるといいかもしれない。